光を掴んだその先に。─After story─
たぶん間違ってはいない。
世間的に言えば、そういうものだろう。
だからこれは嘘じゃないはず…だ。
「経営…。教えてくれてありがとう。失礼なことを聞いてしまって悪いね」
「いえ、全然…」
「君は素直で好感が持てる子だ。私もぜひ入社してもらいたいと思っているよ」
これは期待していいんじゃないの…?
暗ったるいビルだけど、埃っぽいけど…。
前回のガラス張りのビルとは似ても似つかないけど。
でも、こういう目立たない謙虚な会社が案外長続きしたりするものだ。
「それでは3日後、よろしくお願いしますっ!」
「こちらこそお待ちしてます」
ペコッとお辞儀をして、ビルを出る。
最初は適当にやり過ごすつもりだったのに、今はこんなにもウキウキワクワクが止まらない。
職場見学して良かったぁ…。
「履歴書、用意しなきゃっ!あとスーツもアイロンかけてっと!」
決まるかもしれない。
私を“天鬼”として見ない人はちゃんといたのだ。
私を私として、素直で好感が持てるって言ってくれた…。
「───那岐っ!」
「…絃、」
屋敷の中ではそう呼ぶのがお約束。
あれ以来こうして顔を合わせたのは初めて。
それにちょっと複雑だったから避けていたからこそ、そんな私から声をかけられると思っていなかったんだろう。
彼は少し驚いた顔をして、申し訳なさそうな表情へ変えた。
「…前は悪かった。完全に理性が飛んだ、もうあんなふうに無理やり───」
「あのねっ!待ってて!私、ぜったい頑張るから…!!」