光を掴んだその先に。─After story─
那岐side




あいつが本当に就職をしたくて、本当にその会社で働きたいのならば。

俺がそれを止める権利はない。


たとえ俺たちが恋人同士だとしても、絃の人生は絃のものなのだから。



「…盗み聞きか」


「……たまたま鉢合わせただけだ」



邪魔をしなかっただけ有難いと思え───と、物陰から出てきた1人の女。


正直、こいつは可愛くない。
そして面倒な事この上ないのだが。

だが、俺たちのことを見ているだなんて最初から知っていたから。


だから俺は2つの意味で絃へ伝えたのだ。



「断られてるじゃないか。ほら、あたしの言った通りだろう。色恋だなんて所詮そんなものだと」


「…放っとけ」



確かに俺は断られた。

それも2度目だ。

ただ、もし本当に俺と結婚したくなくてああ言ってたんだとしたら。


あそこまで幸せそうな顔をして、途端に泣き出しそうになって。

…そんな顔はしねえだろ。



「だったらお前はなぜ俺に惚れたんだ。色恋なんて所詮そんなモンなんだろ」


「…それは、那岐 絃織はあたしに似ていたからだ」



似ていた…?

俺はこんなに面倒で厄介で猪突猛進な脳筋だってのか。

そんなのこっちから願い下げだ。



「昔の那岐 絃織は色恋なんざ興味なかったじゃないか」



強く、孤高で、女に見向きもしないような───。


佐伯の口から出る俺は、なんてつまらない男なのだろうと思った。

別にそうしようとしてしていたわけじゃない。


ただ俺は、そんなもの目に入らなかったのだ。


俺にとって輝く光はただひとつしかないから。他は暗闇と何ら変わらない。



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