光を掴んだその先に。─After story─
「いつまでも過去の俺にすがるのはやめろ。俺は昔から1人の女のことしか考えてない、
…お前から見れば大嫌いな男の類いだろうな」
「っ、そんなことはない。あんたは盲目になりすぎてるだけだ。いい加減目を覚ませ、那岐 絃織」
覚めてんだよとっくに。
逆にお前が知ってる俺が、覚めてない状態の俺だ。
また絃にこうして出会えて光を見ることができた俺が、本物の那岐 絃織なんだよ。
「お前のそれは、ただ俺を取られたくない女としての欲だろうが」
「っ…、あんな小娘のどこがいいんだ…!」
ここまで感情を露にしてくることは珍しい。
昔から口が悪く、人の心にズケズケ土足で上がり込んでくる奴だとは思っていたが。
それでもエベレスト級のプライドがこの女を一応クールに見立てていた。
「いつも首を突っ込むわりには何もできない小娘だ。
空手だって、回し蹴りを目の前で見せられただけで踞るような弱いお姫様さ」
1度話し出せば止まらない。
だからこいつの話は面倒なのだ。
長いわりには内容が薄い。
本当に昔から変わらねえ…。
「天鬼の娘だからせめて料理くらいはできると思っていたが。
お粥のひとつさえ作れないなんて、天鬼の恥だな」
───…これじゃないのか。
あいつが、絃が、頑張る頑張ると言い出した原因は。
“完璧”だなんて言葉を使うような奴ではなかった。
そのままでいいと、俺は言い続けていたはずなのだ。
俺はあいつの強さを誰よりも知っているから。
「それが若頭の女だとはもっと驚きだった。ふっ、情けないったらないな」
「…黙れ」
「那岐 絃織。あれがあんたの言っていた“いと”だとしたら、ずいぶんな勘違い───…っ!!」