光を掴んだその先に。─After story─
「お前はお前だろ。天鬼 絃じゃなければ男でもない。───佐伯 千春だろ」
生意気でふてぶてしい、一々俺に突っかかってきてはプライドだけは高く負けを認めないような。
そんなこいつが面倒でもあり、だけど“那岐”という姓に怯えなかった1人だった。
だから俺だって楽しかったんだ。
「お前が絃の代わりになれないってことは、絃だってお前の代わりにはなれねえんだよ。
どうにも、お前に憧れて強くなろうとしてるらしいが」
あんなモン無理だろ───と、俺は笑ってやった。
そもそも佐伯は柔道だってのに、なんで空手なんだよ。
そこから間違ってんだよ馬鹿。
「…あの小娘ごときがあたしに追いつくつもりなのか」
「あぁ。本人は至って本気らしい」
「ふっ、無理に決まってるだろう。保育園からやり直せ」
「余計に無謀すぎだろ」
大体、俺が守るっつってんのに。
正義感が強く、まっすぐなところはやはり母親似か。
でも心の奥に秘める優しさと強さは、おやっさんと母さんの2人のものだ。
「悪かった。…あたしも人のことを言えないくらい盲目だった」
「あれ以上言ってたら確実に1発は殴ってたぞ」
「もしそうなら背負い投げてやる」
「…てめえ立場わかってんのか」
「知らんな」
座り込むそいつに腕を差し出してやれば、パシッと払われた。
……やっぱりこいつはいけ好かない。
「もうあたしはあんたを助けないからな、那岐 絃織」
「…俺がいつお前に助けられたんだよ」
「ふっ、黙れ」
あたしじゃなくても光が助けてくれるだろ、とつぶやいたそいつは。
ヒラヒラと手を振りながら去って行った。