光を掴んだその先に。─After story─
まるでその目は“那岐”に怯えてるんじゃない。
“那岐”に軽蔑しているんじゃない。
みんなして“那岐 絃織”に“那岐 慎二”を重ねているのだ。
その息子を、かつての銃殺事件の殺人鬼と呼ばれた男として見ている。
「君には期待していたんだが残念だよ」
これがずっと彼が見てきた世界なのだ。
赤ちゃんの私を抱っこしながら、その腕に抱えながら、それ以上大きなものをいつも小さな背中に背負っていた少年。
私に見えないように必死に隠して守ろうとして、こんな目を浴びているのはいつも那岐だった。
大人たちの軽蔑の視線はどんなに怖かっただろう。
どんなに、苦しかっただろう。
「…師匠、これはもう正当防衛になるよね…?」
「なるなる。さぁ絃ちゃん、楽しい組み手の始まりだ」
私の言葉に唯一、陽太だけがうなずいた。
組み手はいつも私が一番苦手としてた稽古内容なんだけど…。
でも───。
「那岐って聞けばいつもいつも手の平返しやがって…」
言葉の暴力は何よりも痛い。
そのナイフは、一生ものの刺になる。
「ん?どうしたのかね?」
肩幅に足を広げて膝を曲げて、呼吸をゆっくり吐いて、ゆっくり吸って。
「ちょーしに乗るな───…ハゲ!!!」
「うぐ…ッ!!!」
ぐっと拳を握って、その男の腹へと食い込ませた。
それは空手で基本と言われている正拳突き。
一点に集中させ、その拳にすべてを注ぎ込んでピタリと止める。
「この人は那岐 絃織!!那岐 慎二じゃなければ殺人鬼の息子でもない…!!
分からないなら私がこうして何度だって丁寧に教えてやるっての……!!」
ざわめき、どよめき。
そんなものが広がる中で腹を押さえた男へと、私はまた一歩近づいた。
「せーーー…のっ、」
たぶん、できる。