光を掴んだその先に。─After story─
誕生日の日に帰ってきて、おかしいなぁって思ったんだよねぇ。
それにワンピース着てたしメイクなんかしちゃって。
ぜんぶ、絃織さんのために。
「…潰していいか」
「いやいや落ち着いて。それにもう1個いい話があるんだってば!」
潰すって何を?え、ナニを?
それはさすがにやめてほしい。
あんたら2人は人のそういうところを狙ってくるの?
「絃ちゃんが就活始めたのも空手を習い出したのも…お料理教室に通ってるのも、なんでだと思う?」
「…お料理教室?」
「あれ?知らなかった?絃ちゃん一時期、左手が絆創膏だらけだったでしょ?」
思い返すように、その胸ぐらの力は緩まった。
あんなに近くにいて気づかないとかまじ?
…あぁ、絃ちゃんが隠してたのかな。
「ぜんぶ絃織さんのためだよ。そもそも進学にしなかったのだって、遠退くからだよ。
…あんたのお嫁さんになるのがさ」
「……、」
「絃ちゃんが“那岐 絃”になりたくて頑張ってたの、親友の俺は毎日のように見てた」
ヘトヘトになってまでも回し蹴り練習して、体力づくりで走り込みもして。
企業探しに徹夜して、増えてく絆創膏をいつもひとりで貼り変えて。
「ほんと、馬鹿みたいに一途だよねぇ。だから親友として言わせて?」
スッと胸ぐらの力は離れた。
その目をじっと見つめ返して、那岐 陽太と那岐 絃織は向かい合う。
「もう2度と泣かせるなよ。」
あんたが振った女の子は必ず俺が幸せにするから。
だからあんたは、俺の大切な親友を絶対に幸せにしてくれなきゃ許さない。
小さい頃は絃ちゃんの涙を毎日のように見てたのは絃織さんかもしれないけど。
最近はずっと俺、絃ちゃんの泣き顔たくさん見てた。