光を掴んだその先に。─After story─




困惑する彼女をすぐに抱きしめて、俺はひとつずつ伝えた。

これで嫌われてしまうかもしれないって思うのに。


この子なら大丈夫だ、なんて自惚れてたりもして。



「俺、たくさん汚いことしてきた…。本当は桜子をこうして抱きしめていい男じゃないんだよ、」



それなのに俺は離したくなくて、きつく抱きしめていて。


離れないで、俺から絶対に離れないで。

君は俺の、俺の───…、



「天道さんのそういうところが、好きです。本当は自信なくて弱いところが…好きです」



桜子って名前の通り、彼女の髪からは桜の匂いがする。

背中に回された細い腕が何よりもあたたかい。



「私は、私が見た天道さんが私にとってすべてなんです。だから私も天道さんにとって……、
那岐さんにとっての絃ちゃんのような存在に…、なりたいです…っ」



彼のことを“那岐さん”って呼ぶ、その子なりの気づかいも。

お嬢様なのにフードファイターなところも。


まだまだ顔を近づければ真っ赤になっちゃうところも。

身体の関係は結婚してから、なんて言っちゃうところも。


───…ぜんぶ、かわいい。



「んー、それは無理かなぁ」


「えっ、…やっぱり……そうですよね…、」


「だって桜子は絃ちゃんじゃないし、俺は絃織さんじゃないもん」



ねぇ、掴めるんだね絃織さん。

俺にも掴めたよ。




「でも桜子は、俺の光になれるって───……知ってた?」




光って、本当にあるんだね。

俺の前にも眩しくて温かくて、優しくて綺麗な光はどうやら現れたみたいだ。



「天道さんの光に…なります…!」


「じゃあこのままホテル、行こっか桜子」


「はいっ!……えっ!?」


「結婚前提だから問題なーし」



そんな光を包み込むように、そっと優しく唇を寄せた。








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