光を掴んだその先に。─After story─
少年が唯一、本当の気持ちを言葉にできる時間だった。
『俺はずっと大罪人の息子だから…。ぜったい絃には同じ思いはさせられないから…』
同じ姓を名乗ることはどうしたってできない。
地球がひっくり返ったって、それは絶対にしちゃいけない、ゆるされないものだ。
だから絃織はずっと“那岐”として生きていた。
自分が“天鬼”に変えたならば、その名前だけが変わったとしても表面だけだから。
それはもっとこの子を苦しめるときが来てしまうから。
『那岐 絃…も、……似合うと思うなぁ』
ははっと、小さな笑い声は震えていた。
ポタリポタリと頬に止めどなく流れている。
“那岐”を変えてくれるんじゃないか。
この辛く哀しい名前に、この子なら光を当ててくれるんじゃないか───…。
そんなふうに思ってしまう自分は、きっと赦されない。
『な、…ぎ、』
『……絃、いま…“なぎ”って…、』
『なぎっ』
“な”は、まだ言えなかったというのに。
ずっと寝ていたと思っていたのに。
少女はパッチリと綺麗な瞳を開いて、少年の名前を呼んでいる。
そして手を伸ばしてくる。
『な…ぎ!な、ぎっ』
泣かないで、泣かないで───そんな言葉のない言葉が聞こえたような気がした。
『ありがとう、絃。…だいすき。』
少年は気づいていない。
目の前の光に惹かれていて、気づいていないのだ。
その夜空に今にも降ってきそうなほどの流れ星が満天に広がっていることを───。