光を掴んだその先に。─After story─
「…ここは……どこですか、」
返事はない。
車は停車して、腕を引かれるまま大きな建物内のエレベーターに乗って。
気付けばひとつの玄関の前。
ガチャッと、カードキーで開いた厚めのドア。
「わぁ…!」
高層マンションだ。
何階なのかも分からないくらい、窓ガラス一面に広がる夕暮れ空。
広いリビング、無地のソファーにシンプルなデザインのキッチン。
そこは引っ越したばかりか、使われていないだけか、生活感のない一室だった。
「すっごく高い…!でもちょっと怖いかも…」
「すぐ慣れる」
「絃織は怖く───…」
そうだ、こんなありふれた会話をしていい空気ではなかった。
まずは謝らなくちゃいけない。
えと、あの、と言葉を紡いで。
「どうせ、無理やり参加させられたんだろ」
「…うん」
「俺もたまたま仕事で来てただけだ。…陽太にハッキングさせたわけじゃねえからな」
うん、そこは疑っていなかった。
天鬼組は大手企業のバックに必ずついているから、今回もそのひとつなんだろうなって。
毎日毎日忙しそうにしてるのは十分知ってるからこそ、また手間をかけさせてしまったことだけが心苦しい。
「ごめん、もう行かない……、あんなのぜんぜん面白くなかったっ」
「…ん。」
そのままひょいっとお姫様抱っこ。
ポスッと大きめのソファーに寝かされ、重さのかからない程度に覆い被さってくる。
「んっ…」
ちゅっと触れるだけのキス。
フレンチキスってやつだと、最近になって知った。