光を掴んだその先に。─After story─
「私も今さっき帰ったとこでっ!あのね、今日学校でね───」
そんなありふれた会話を早く聞きたかったためだけに仕事を投げ出してまでも戻ってきた。
そう、すべてはこの少女のため。
「あれ?そういえば俊吾たちは…?」
「置いてきた」
「ええっ、また!?駄目だよそんなことしちゃ!いつもみんなヘトヘトで帰ってくるんだからっ」
こうして若頭である男を叱れる者は、この少女だけだった。
そして普段クールで顔色を滅多に変えない男を変えてしまえる者も、目の前の1人だけ。
それほどに絃織にとって絃は木々の隙間から溢れるような、木漏れ日の光。
「那岐、聞いてるの?なぎっ!」
「…いまは名前でいい」
「っ…、いおり、」
そう名前を呼び捨て出来る者だって限られているというのに。
それでも許してしまえるのは惚れた弱味か、少女だけの特権か。
「んっ…っ、」
甘くとろける、バニラアイス。
広い屋敷の中でも組長の大事な一人娘の部屋付近は、通っていい人間が限られていた。
だからこそ2人の時間はゆっくり流れる。
「ん、くすぐったいよ…」
ちゅっ、ちゅっと額や頬に口付けては弾ける音。
照れながら硬直させる身体も、時折「へへっ」と笑う声も。
すべてがいとおしい。
「…部屋行くか」
「へ、や…?」
「あぁ、ベッドのがいろいろラクだろ」
「っ…バカなの…!?まだ夕方だ───ぅわぁっ!」