光を掴んだその先に。─After story─
ひょいっと抱え、スタスタ進む。
たとえジタバタ暴れたとしても、引き寄せて甘く名前を呼び、たまに軽いキスを落とせば大人しくなってくれるから。
可愛い、愛々しい、愛くるしい、愛しい、考えられる言葉すべてが当てはまる。
そう、男はこの少女が可愛くてたまらないのだ。
「ほんっと、今日も相変わらずな溺愛っぷりだねぇ絃織さん」
「まぁな」
見せつけてくれちゃって───と、通りすがりの天鬼組天才ハッカーはつつく。
ニヤニヤからかわれたとしても否定の仕様が無かった。
それはもう認めざるを得ない。
「もうっ!笑ってないで助けてよ陽太(ひなた)っ!」
「むーり。助けたらそれこそ俺の安否に関わっちゃうもん」
「陽太っ!貸しまだあったでしょ…!───わっ、」
ぐいっと男はもっと引き寄せた。
「陽太」と名前を連呼されたことがつまらないらしい。
気に食わないらしい。
少々腹が立っているらしい。
「それ以上言ったら口塞ぐぞ」
「っ…」
「おーこわ」と、ゆるふわパーマな茶髪をふわっと靡かせた片方は笑いながら去ってゆく。
再びふたりきりになり、男はそっと少女の小ぶりな耳へ唇を近付けた。
「お前は俺の女だろ。それか、俺の名前しか呼べないようにされてえのか」
またもや少女はノックダウン。
あぁ、それ前に手洗わねえとな───なんて。
赤子を抱っこしていた少年だった頃の幼い記憶も、男の中にしっかりと残っていた。