光を掴んだその先に。─After story─
味わう敗北
用意された胴着は袴ではなく、白い生地に腰回りは白い帯を巻いたもの。
そして目の前の男は黒い帯。
まるで先生と生徒───そんな空気感で道場に立つ、ふたつの影。
「いい?空手は突き、蹴り、受け。これが基本」
「押忍っ!」
「拳の握り方、立ち方でかなり変わってくる。基礎だけでも何通りものやり方があるんだ」
「押忍!!」
「いやぁ返事だけは素晴らしいね。気合いだけは褒めてあげよう」
「押忍っ!!ありがとうございますっ!!」
梅雨が近づいて蒸し暑さが出たから断られるかと思ったけど、そいつは意外にも快く受け入れてくれた。
剣道の師は那岐 絃織。
そして空手の師は天道 陽太。
そんな2人に教えてもらえる私は、いつかスーパーマンにでもなっちゃうんじゃないかと。
「でもひとつ言うなら、せめて髪くらいは結ぼうよ絃ちゃん」
「あっ、いや、これは……」
「いつもの馬の尻尾はどうしたのさ」
「いやポニーテールって言って!?」
馬の尻尾言っちゃうと生々しさが出ちゃうから…!!
本当は私も結べるものなら結びたい…。
でもそうはできない理由という理由がちゃんとあって…。
「キスマークなんか別に気にしないよ俺」
「…でも私が恥ずかしいもん」
「だって週末は2人で愛の巣なんでしょ?そりゃそういうコトしてるだろうしさ」
「そ、そういうコトってな───んっ!?!?」
キスマーク…?
いまこいつ、そんなことを平気で言ってのけた…?