光を掴んだその先に。─After story─
「───…いと…、」
そんな彼女は1トーン落とした声で私の名前を復唱。
そんなものに私も陽太もすぐに察知し、思わず間合いを取った。
こういう勘はだんだんと磨かれていっているのだ。
「下がってて絃ちゃん」
「でもこの人めちゃくちゃ強いよ陽太っ」
「俺も空手はそこそこ自信あるよ?それに頭の回転も早いから」
部外者をこんなにも簡単に入れることは無いようにしていたとしても、今の天鬼組はいろいろと狙われやすい立場にある。
だからこそ女を使うことも少なくないって、俊吾は言っていた。
どんな手を使ってまでも乗っ取ろうとする。
それがこの世界。
「完璧な動きだ。どうやら思っていたほど天鬼組は落ちぶれていないらしいな」
すると女は軽い拍手を響かせて笑った。
きょとんと目を丸くさせる私たちに、今度は彼女から近づいてくる。
「あたしは天鬼組とは昔から縁のある佐伯組の一人娘、佐伯 千春(さえき ちはる)だ。
密偵でも何でもない、そんなに構えないでくれ」
───佐伯組(さえきぐみ)。
また新たな名前が出た。
そして彼女は私と同じで、そこの組長の一人娘らしい。
歳は絃織や陽太と変わらない気がするけど…。
「ここの新しい若頭が仕事を押っ放り出すような大分ふざけた奴だと聞いてな。わざわざ京都から出向いてやったんだ」
あ、それぜったい絃織のことだ。
心当たりしかない…。
いつも下っぱに仕事投げ出して帰ってきてたツケとやらが今になって回ってきたんだ。