光を掴んだその先に。─After story─
そんなあたし達が屯う道場へ、静かな足音が響いた。
そしてこの香水の香り。
女みたいな匂いをしていると昔から思っていた。
「あっ、絃織さんお疲れー」
「…まだお前らはそんなことしてたのかよ」
「俺は親友として恩を返してるだけだよ」
熱も回復し、あれからまた日々忙しそうにしている天鬼組若頭。
今日の会議は天鬼の屋敷で行われたからこそ、あたしもここにいるわけで。
そうすればこうして揃ってしまうこともまた、必然的だ。
「ひ、陽太…!いや師匠!次は走り込み行こう…っ!」
「え、今から?絃ちゃん明日一次面接なんじゃないの?」
「わーーー!!ここで言うなってバカっ!!」
「あっ、そうだったごめんごめん」
夏夜に響く鈴虫とセミの鳴き声の中だとしても、余計に反響する道場にはしっかりと聞こえた。
いそいそと天道の腕を引っ張るようにして逃げようとする少女の腕をパシッと掴んだのは。
「わ…っ、」
そしてそのまま腕の中へと収めてしまったのは。
那岐 絃織だった。
「私…これから走り込みが…!」
「悪かった。誕生日おめでとうも言ってやれなくて、…ごめん」
「っ……熱は、もう大丈夫なの…?」
「…あぁ」
人目も気にせずこんなことをするなんて、やっぱりこの男らしくない。
天道はそんな2人をからかうかと思いきや、意外にも静かに見つめていた。
あたしはドクドクと苦しさの込み上げる気持ちを制することに精一杯で。