光を掴んだその先に。─After story─
「あっ、絃ちゃんなら今カレーを食べてて!」
「ちょうど余っていますし、よかったらご用意しましょうか?」
施設の玄関付近から若い職員の甲高い声が聞こえる。
いつもより女を発揮した音色に、誰が来たのかなんて一瞬にして分かってしまう私の洞察力。
「佳祐っ、隠してっ!」
「おわっ、なにすんだよ!」
「いーから隠してって!お願いっ」
ぐいぐいとその背中に隠れて、身を屈める。
うしろから見れば丸見えなのだが、彼が現れるであろう入り口からは視覚的に隠れられるはずだ。
「私はいないって言ってよっ」と、小声でヒソヒソ伝える───が。
「…なにしてんだてめえ」
一瞬にして見破られてしまい、目の前にはこの上なく眉間を寄せるその人。
その「てめえ」は私ではなく、佳祐に対してだと分かるぐらいに絃織は睨んでいた。
「お、俺じゃないよ那岐さん…!こいつが勝手に…!」
「帰るぞ」
「わっ…!」
ぐいっと手を引かれ、気づけばあっという間に車高の低い助手席に座らされていた。
沈黙の時間が広がって広がって、広がって。
そして車はなぜか屋敷の駐車場ではない場所で停止。
「…あ、あのぅ、」
そこは夜景の見える高台だった。
こんな場所あったんだと、いつもこの車はいろんなところへ連れて行ってくれる。
運転席脇のレバーを引き、シートごとうしろに下げた男はそのまま私の手を引いた。
「わっ…、」
膝の上に乗らされ、腰には手が回っている。
この体勢はどうやら彼のお気に入りらしいのだ。