光を掴んだその先に。─After story─
先生は本を出すくらい有名な料理研究家だという女性。
60代だと言っていたけれど、食に拘る生活の結果が若々しい見た目に現れていて。
「へへ、確かに絆創膏だらけでした…」
「もう増やしちゃだめよ?」
「もちろんですっ」
温かな笑い声が教室に広がった。
高校生でお料理教室だなんて珍しいと、もちろん最初は驚かれたけど…。
花嫁修業かしら?なんて言われて。
そして強ち間違ってもいなかったから苦笑いで済ませて。
「未来の旦那様は幸せねぇ。きっとこれからもっと上手になるわ」
「…そうだといいなぁ」
「あら?ずいぶんと謙虚なこと」
だって今回は相手が悪い。
完璧だと思っていた憧れの人は、実はそうでもなくて。
でも“鉄の女”って感じがしてすっごく厄介で…。
『那岐 絃織。どうやらあたしはあんたに惚れているらしい』
彼女らしい告白だと思った。
隠さず素直にまっすぐ、猪突猛進に。
でもどうしてあの場所であのときに…って責めたくなったけど。
それから彼と私は顔を合わせることもまた少なくなって。
私も就活だったり稽古だったり、こうしてお料理教室で忙しい毎日を過ごしているから。
「…寄ってみようかなぁ」
カードキーは持ってる。
いつも大切に持ってる。
でも今はまだ16時だし、きっと帰ってないはず。
本当はふたりだけのマンションが用意されて、幸せすぎるほど幸せだったのに。
嬉しかったのに…。
「もーー!!やだーーーっ!」
千春さん……やだ。
桜子ちゃんや雅美さんのほうが、まだライバルとして成り立ってた…と思う。