光を掴んだその先に。─After story─
「わ、忘れ物を取りに来ただけっ!もう帰るところでっ、それでっ───…わぁっ!」
そのまま向かってきたと思えば、ひょいっと抱えられて。
変わらない香水の匂いに酔いそうになり…。
リビングまで待てなかったのか、玄関から近い寝室へと運ばれた。
「わっ、もうっ、かえる…からっ」
ポスッと跳ねる身体。
同じタイミングで髪ゴムが外されて、散らばる髪の毛。
すべてを逃がさぬよう覆い被さってくる。
そんな一瞬、泣きそうな顔が見えたような気がした。
「もう来てくれねえかと思った……、」
弱々しい…。
この人にしては、なんてか細い声なんだろう。
「絃織こそ…なんでこんなに早く…」
「俺も忘れ物があって、取りにきた」
「大事な資料とかなんじゃないの…?」
「問題ない。…明日に回せる」
「だめだよっ!またいろいろ言われちゃうよ!!」
それでも退こうとしない。
それどころか首筋に顔を埋めるように抱きしめてくる。
千春さんの告白の日以来だ、こうして抱きしめられたのは。
「んっ…!…んんっ、ふ…っ」
それは優しいものではなかった。
荒く激しくて、それなのにとろけてしまいそうなもので。
誕生日の日、きっとこんな時間があったはずなのに。
……やっぱり頭に出てくるあの存在。
「いお…っ、ひゃぁ…っ、」
ショートパンツだったからこそ、また太腿を直に撫でられた。
もぞっと身体を捻らせたとしても効果はない。
むしろ熱い吐息が唇の隙間から漏れては、静かな部屋に響くだけだ。