内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました～極上シークレットベビー～
　湯呑みの中の若草色のお茶をジッと見つめて、祐奈は眉間にシワを寄せた。
「でも……でも十年前はあんなに皆反対したのに。今さら……、今さら虫がよすぎない？　私、なんだか腹が立って……」
　そう言って、祐奈は座卓の上で握った拳に力を込めた。
　十年前、同じように天沢ホテルが宇月温泉に進出するという話が持ち上がった。
　その頃はまだ宇月ランドは営業していたから、候補地はまた別の場所だったけれど。
　そして、その計画に地元の旅館組合は大反対した。
　当時はまだ景気がよくて観光客もたくさん来ていたから、彼らにとって天沢は客を取り合うライバルでしかなかったのだ。
　そんな中、祐奈の父で秋月の主人だった秋月秀明だけが、その計画に賛成した。
　まだ高校生だった祐奈には、なぜ父がそうしたのかはわからない。わかるのは、父と当時天沢ホテルの副社長だった天沢宗久が友人だったこと。
　それから『宇月温泉の未来のために天沢ホテルは必要だ』と語っていた言葉だけ。
　だがその父の行動が、秋月の行く末を大きく左右したのだ。
　旅館組合と真っ向から対立した父は、裏切り者扱いされて街中から非難された。
　従業員も、ひとりまたひとりと去っていった。
　それでもどうにかこうにか経営を続けてはいたけれど、ある時その計画は天沢側の一方的な理由により頓挫した。
　その直後心労がたたった父は突然倒れてそのまま帰らぬ人となってしまった。
　主人を失って従業員もいない状態では旅館経営など続けられるはずがない。秋月は廃業し、祐奈と母には古い自宅だけが残ったのだ。
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