内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
「時代が変わったのよ」
 寛子が優しい声音で言う。
「でも……!」
 祐奈は納得できなかった。
 裏切り者と謗られて亡くなった父の無念を思うと、納得していいとはどうしても思えなかった。
 計画が持ち上がった頃は時々この家を訪れていた天沢宗久は、父の葬儀にも来なかった。
 ただ義務的に香典が届けられただけだったのである。
 今になって、天沢ホテルがなにごともなくこの地に進出するならば、父の死はいったいなんだったのか。
「十年一昔って言うじゃない。お父さんは、宇月温泉を誰よりも愛していたわ。天沢ホテルが来ることで、宇月温泉にしかない魅力を全国に発信できると信じていた。もし今ここにいて、祐奈がプロジェクトのメンバーに選ばれたって知ったら、喜ぶんじゃないかしら」
 そう言って寛子は立ち上がる。
「まぁあなたの仕事のことだから、お母さんは口出ししないけど。……お風呂に入ってくるわね」
 母がいなくなった居間で、祐奈は古い畳の縁を見つめながら、彼女の言葉を反芻した。
 本当に父は祐奈がメンバーに選ばれたことを喜んでくれただろうか。
 地元を敵に回してでも叶えたかったことを、娘が叶えてくれるって?
 だがもちろんいくら考えても、答えなど出なかった。
 祐奈は立ち上がり、寝室へ行く。そしてスースーと寝息を立てている大和の頭をそっと撫でた。 
< 11 / 163 >

この作品をシェア

pagetop