内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 皆が彼女を微笑ましいと思うその空気からひとり取り残された祐奈の隣で、田原が呟いた。
 祐奈の胸が締め付けられるように痛む。
 もしそうであるならば、二年前に彼女が言った婚約間近だという言葉と整合性が取れる。
 彼女は秘書室へ入るにあたって、彼を調べたということだ。
 突然突きつけられた思ってもみなかった展開に祐奈の頭は混乱の渦に飲み込まれてゆく。
 いつのまにか大雅と銀行員が戻ってきて、取引は締めの作業に差しかかっても、どこか遠い世界のように感じるくらいだった。
「……さん、秋月さん」
 祐奈は呼びかけられてハッとする。
 田原が立ち上がり、首を傾げてこちらを見ていた。
「我々も失礼させていただこう」
 そう言われて部屋を見回すと、どうやら取引は無事に終了したようで、皆どこが安堵した表情で荷物を片付けたり立ち上がったりしている。
「あ、はい」
 祐奈も慌てて立ち上がった。
 その時。
「今日はわざわざお越しいただきまして、ありがとうございました」
 低い聞き覚えのある声が祐奈たちにかけられる。
「ああ、副社長」
 田原がにこやかに応えた。
「こちらこそ。私どもとしましては今日で一区切りです。安心しました」
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