内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 確認するように言って、痛ましそうに顔を歪める。祐奈はそれに答えることができなかった。
「あなたは天沢さんを……天沢ホテルを恨んでいた。だから大和が生まれるのに、大雅さんと別れるしかなかった」
 母の口から告げられる祐奈のこれまでの真実に、やはり祐奈は答えられない。
 頭の中が真っ白だった。
 母の話が本当だとしたら、それを知っていたら、祐奈は天沢ホテルを恨むことはなかっただろう。
 二年前に大和を身ごもりながら身を切るような思いをして、大雅と別れることも……。
「ごめんなさい……」
 母が顔を手で覆い、絞り出すように祐奈に詫びる。
 祐奈は震える唇を無理やり開いた。
「お母さん、そんな……お母さんのせいじゃないわ」
 親戚や周囲の人たちから漏れ聞く話を間に受けて、勝手に恨みを募らせたのはほかでもない自分なのだ。
 そしてその思いを胸の奥底に仕舞い込み、ずっと母にも隠してきた。
 母がそれに気が付かなかったのは仕方がない。
「本当にごめんね。でも……でも……! お母さん、あの時、お父さんが亡くなった時、旅館と自分のことで精一杯で、まだ高校生だった祐奈に周りの人がどんな話を聞かせたのか、あなたがどんな気持ちでいるか、考える余裕がなかったの。今回天沢ホテルが宇月に来るって聞いた時のあなたの反応を見て、もしかしたらって思ったんだけど……」
 そう言って、静かに涙を流す母を、大和が不思議そうに見上げている。
 祐奈は呆然として、その黒い髪を撫で続けた。
 なにもかもが誤解だった。
 天沢宗久は父を裏切ったわけではなく、ふたりは本当に親友だった。宇月の将来を真剣に話し合い、明るい未来を夢見ていた。
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