内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 その時、役場から続く坂道の下に黒い車が見えてきた。
「あ、お見えになった」
 呟いて、田原が乱れた白髪頭を手で撫でつける。
 祐奈は小さく息を吐いて、スッと背筋を伸ばした。
 プロジェクトメンバーに入った以上は、天沢宗久に対する祐奈の気持ちと、仕事の話は分けて考えなくてはいけない。
 黒い車は滑るように坂道を上ってくる。そして静かにエントランスに停車した。
 祐奈たち三人は車に歩み寄って出迎える。
「はじめまして、ようこそお越しくださいました」
 にこやかに声をかける田原の隣で、祐奈も彼に習い口を開こうとする。
 だが後部座席のドアを開け、コツリ靴音を響かせて降り立つその人物に、目を見開いて固まった。
 背の高いその男性は、今来た道を眩しそうに振り返り、祐奈たちに視線を移す。そしてメンバーの中に祐奈を見つけて、綺麗な瞳を見開いた。
 反対側の扉から降りてきた事務方の男性が、目の前の人物を紹介する。
「こちら今回の統括責任者、天沢ホテルグループ取締役副社長……」
 その先は言われなくても祐奈にはわかる。
 少し硬い短めの黒い髪。
 意思の強そうな目元。
 祐奈の父を裏切った男、天沢宗久のひとり息子、天沢大雅(あまさわたいが)。
 祐奈がかつて将来を誓い合った恋人だった。

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