内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 さっきの夫婦が行くつもりだった遊園地宇月ランドは、温泉街から少し離れた山の上、風光明媚な場所にあった。
 十数年前にここ宇月温泉の観光名所となるべく鳴り物入りでオープンしたが、数年前に運営会社が破綻して閉園した。
 以来、使われなくなった建物と遊具が撤去されずそのままになっている。おもしろ半分に見に来る若者の溜まり場になっていて、今では地元の悩みの種だ。
 治安にも影響するから、祐奈と真由香が所属する役場の観光課も、躍起になって売却先を探しているが、遊具と建物の撤去費用がネックとなって、見つからない状況が数年間続いているはずだ。
「売却先、ついに決まりそうなの?」
 祐奈は興味津々で真由香に尋ねる。
 同じ観光課内の話でも、祐奈は嘱託職員で役場にいる正職員とはあまり交流がない。誰からもそんな話は聞いていなかった。
 一方で真由香の方は立場は祐奈と同じだが、仕事終わりに飲み会に参加したりして、他のメンバーともよく交流しているから情報は早い。
 シーズンオフの温泉街、もう日が傾き始めたこの時間はあまりお客は来ないから多少話をしていてもまったく業務に差し障りがない。
 真由香が嬉しそうに話し出した。
「決まりそうなんですよ。しかもそれがなんとあの、天沢ホテルだそうなんです!」
「天沢ホテル……?」
 祐奈は眉を寄せて呟いた。
 同時に胸の鼓動がどきんと嫌な音を立てる。カウンターについた手をギュッと握りしめた。
「そうです!」
 少し動揺してしまった祐奈をよそに、真由香が嬉々として言葉を続ける。
「あのラグジュアリーホテルの天沢です! 驚きですよね。天沢ホテルが進出する観光地って沖縄とか北海道とか有名なところばかりだと思っていましたから、宇月温泉(うち)みたいな地味な温泉地に目を向けるなんて」
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