内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
「ほらどうぞ」と差し出されたのは、かつてアパートに来る時にいつも彼が買ってきた、祐奈が大好きなストロベリーのアイスだった。
「いやぁ、ありがとうございます」
 田原が嬉しそうに言って、チョコのアイスにかぶりつく。祐奈も戸惑いながら、アイスクリームをぺろりと舐めた。
 甘酸っぱいその味は、あのアパートで彼と食べたアイスクリームの味がした。
「もうすぐしたら、大和くんも食べられるようになるんでしょう?」
 女将がカウンターに頬杖をついて、機嫌よく言う。
 祐奈は頷いた。
「はい。……というか、もう一歳を過ぎていますから食べさせてもいいみたいなんですけど。まだちょっと不安で……」
「初めての子は不安だよねー」
 そう言って女将は大雅を見た。
「彼女ひとりでお子さんを育ててるんですよ。まぁお母さんが一緒に住んでるから安心は安心なんですけどね」
「そのようですね。お若いのにしっかりした方だ」
 そう言って微笑む大雅を祐奈は直視できない。落ち着かない気持ちでアイスクリームをもうひと口食べた。
 こうやって世話話代わりに家族のことを尋ねられたり尋ねたりは、この辺りではごく普通のことだ。でも大雅の前ではやめてほしいと祐奈は思った。
 助けを求めるように田原をチラリと見るけれど、彼らに女将を止める気配はない。
 今日は宇月の名所を巡るだけではなく、地元の人たちとも言葉を交わしたいと、事前に大雅が言っていたから、それに従い口を出さずにいるのだろう。
「大和くん可愛いんですよ。うちの孫と同じ保育園なんです。目元がとってもキリッとしてて、ありゃ男前になるねーって嫁がいつも言ってるの」
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