内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 取締役会が終わって副社長室に戻った大雅が資料を確認していると、ドアをコンコンとノックする者がいた。
「どうぞ」
 答えると、秘書室に所属している大泉奈々美(おおいずみななみ)がお盆を持って現れた。
「副社長、取締役会おつかれ様です。お茶をお持ちしました」
 少し鼻にかかった高い声でそう言って、奈々美はいそいそと大雅の方へやってくる。甘ったるい花の香りが大雅の鼻を掠めた。
「……ありがとう」
 大雅は資料から視線を上げてお礼を言う。
 奈々美はにっこりと微笑んで、机にお茶を置いた。
 そしてその後も立ち去ることなくお盆を持ったまま、期待を込めたような目で大雅を見つめている。
 大雅はそれをチラリと見て、口を開いた。
「……なにか?」
「大雅さんは、明日はお暇ですか?」
 大雅は心の中でため息をついた。
 さっきの取締役会でも話題に上っていたこの奈々美は、勤務中にも関わらずこのように大雅に対して親しげに振る舞うことがよくあった。
 明らかに秘書としてはありえない言動だが、いくら注意しても直らない。
 縁談自体はとっくの昔に断っているが、それにしては三十五歳になる大雅が他の誰かと結婚する気配がないものだから、諦めていないのだろう。
 さっきの取締役会での父の指摘は間違っていない。
「明日は予定がある」
 大雅は資料に視線を戻して、やや硬い声で答えた。
「でも大雅さん明日は休暇を入れられていますよね」
 奈々美はなおも食い下がる。
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