内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 だがすぐに、目を閉じてゆっくりと首を振った。
「いや、いい」
「副社長、ですが……」
「必要ない」
 そう断言して、山城からの返答を拒否するように大雅はくるりと椅子を回して彼から背を向けた。
「……少し、ひとりにしてくれ」
 ばたんと閉まるドアの音を聞いて、大雅はふぅーと息を吐いて天井を仰いだ。
 山城は二週間前の宇月温泉視察に同行して、祐奈と大雅のやり取りを直接目にしている。宇月ランド跡地で言い争ったことも知っているのだから、このように言うのは当然だ。
 だが調査などせずとも祐奈の子は自分の子だということを、あの時大雅は確信した。
 子供の年齢と妊娠期間を考えると、彼女に子ができたのは大雅との交際中に間違いない。であるならば、相手は自分以外ありえない。
 君への愛は本当だったと大雅が告げた時、彼女が一瞬だけ見せた燃えるような瞳。
 あの瞳は、紛れもなく真実に満ちていた。
 祐奈は子ができたことを大雅に告げないまま、東京を去り、故郷の街でひとり子を産み育てた。
 ……どうして黙っていたのだろう。
 大雅は目を閉じて、考えを巡らせる。
 愛していると言いながら、立場を偽っていた大雅に失望したからだろうか?
 これから生まれる子供の父親に、大雅は相応しくないと?
 ……そうかもしれない。
 でもそれだけではないのでは?という思いを大雅は抱き始めている。
 もしかしたら別れ自体、大雅の知らないなにかが引き金になったのではないだろうか。
『あなたがあなたであることに、変わりはない』
 叫ぶように言った彼女のあの言葉の意味は……。
 目を開くとすぐ目の前にそびえ立つ東京タワー。
 それを見つめる大雅の脳裏に、二週間前の祐奈の姿が浮かんだ。
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