内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
「なかなかいい職場みたいだね。子供のことも理解があるみたいだし」
 案内所を出て初夏の日差しを浴びながら、大雅はメインストリートをゆっくり歩く。
 その背中についてゆきながら、祐奈はぽつりと呟いた。
「……卑怯だわ」
 大雅が振り返って、眉を上げる。
 祐奈はその彼を睨んだ。
「仕事の立場を利用して会いにくるなんて。あなたがこんな人だとは思わなかった」
 観光課の職員としてはありえない言動だと自分でも思うけれど、はじめにルールを破ったのは彼の方なのだ。
 どうにでもなれという気持ちだった。
「君が、プライベートでも会ってくれるなら、もうやめるよ」
 平然として、それからむちゃくちゃなことを言って、大雅はまた歩き出す。
 祐奈はその彼の後ろをとぼとぼと歩いた。
 しばらく歩くと三叉路に行き当たる。右手を行くとメインストリート、左手が奥山旅館へ続く道だ。
 大雅がメインストリートのアイスクリーム屋に目を止めて祐奈を振り返った。
「今日もアイスを食べたのか?」
 金曜日の昼休みに、一週間のご褒美として祐奈がアイスクリームを食べていることについて言っているのだ。
 祐奈はゆっくりと首を振った。
「今日はアイス屋さん、ちょっと混んでたの。時間がなくなりそうだったからやめたわ」
 すると大雅は頷いて、「なら今食べればいい」と言う。
 そしてひとりさっさとアイスクリーム屋へ歩いてゆく。
「え? あ、ちょっ……!」
 祐奈は止めようとするけれど、言っても無駄かと思い直し諦めて、少し離れて彼を待った。
 こんなところは祐奈が知ってる昔のままの彼だった。
 思い立ったらすぐに行動。
 出会った時にも鍵を一緒に探したお礼の食事は、すぐその場で日にちと時間まで決められた。
「ほら、食べながら行こう」と差し出されたアイスを受け取って、祐奈はそれをぺろりと舐める。
 やっぱり、彼の手からもらうアイスは、あのアパートで食べたストロベリーの味がした。
 三叉路を左に行くと人通りがなくなって静かになる。そよそよと風が緑を揺らす小道をふたり、言葉少なに歩く。
 やがて前方にキラキラと輝く海と奥山旅館が見えてきた。その看板を確認して祐奈は足を止めた。
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