内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
「あちらが、奥山旅館です」
 他人行儀にそう言って、ひとり来た道を引き返そうとする。
 でもその祐奈を大雅が止めた。
「話があるんだ、祐奈。……そこのベンチに座って」
 彼が指差す先には、海を望むことができる忘れ去られたような公園があった。
 祐奈はとっさに彼の要求など無視をして、帰ってしまおうかと考える。
 祐奈の方は話すことなどなにもない。 
 けれど、逃げていてもなんの解決にもならないと思い直し、素直に従った。
「もう、こんなことはやめて」
 ベンチに座り残りのアイスを食べ終えて、祐奈は彼に訴えた。
「こんな風に会ってるところを誰かに見られたらどうするの?」
 小さい街だからなにかあればすぐに噂になってしまう。それでなくても今や大雅は宇月の街にとって大切な人。その彼と祐奈が噂になったりしたら、下手をすれば仕事にも影響が出かねないのだ。
 だがその祐奈の訴えに、大雅は頷かない。
「君が答えをくれるまで、俺は君に会いにくる」
「答えなんて!」
 祐奈は思わず声をあげる。
「答えなんて私から聞かなくても、あなたなら……あなたなら簡単に、調べられるでしょう?」
 少し皮肉を込めて祐奈は言う。でもそれは事実だった。
 彼は天沢ホテルの副社長なのだ。
 その気になれば大和の父親が誰なのかも、祐奈が大雅を拒む理由だって、簡単にわかるのではないだろうか。
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