内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 祐奈が胸の中のこだわりを乗り越えることができれば、ふたりはもっと一緒にいられるのだ。
「ねんねだね」
 祐奈は大和を抱き取り立ち上がる。そして寂しそうな大雅を見ないフリして隣の部屋へ移動した。
 続きになっている隣の和室は、大和が昼寝をすることを想定して、布団がひとつ敷いてある。
 薄暗いその部屋を大和を抱いて行ったり来たりしていると、腕の中の大和がくーくーと寝息を立て始めた。
 そろそろ寝たかな、と祐奈が思ったその時、音も立てずに襖が開く。
 大雅だった。
 部屋に入り襖を閉じて、彼はゆっくりと祐奈に近づく。
 そして大和を抱く祐奈を後ろからふわりと抱きしめた。
「……大雅⁉︎」
 祐奈は小さな声で抗議する。寝かしつけの邪魔はしないでとほしいというのは、あらかじめ言ってあるはずなのに……。
 でも大雅は祐奈のその抗議を聞きれるつもりはないようだった。祐奈と大和を包む腕にぎゅっと力が込められる。
 そして祐奈の耳に囁いた。
「寝ちゃったな……もっと起きててくれたらいいのに」
 祐奈の腕で寝息を立てる大和の髪をそっと撫でて、大雅が残念そうに言う。
 その言葉に祐奈はふふっと笑みを漏らた。
「もっと起きてたらいいのになんて、一緒に住んだら絶対言えなくなるよ」
 まだまだ小さい大和と一緒に生活をする大変さを彼はわかっていないと祐奈は思う。
 大和が起きている限り祐奈には自由はない。
 トイレにだって、おちおち行っていられないのだから。
「本当に大変なんだよ、毎日毎日どうやったら寝てくれるかなーってそればっかり。大雅だって一緒に住んだらきっと……」
 でもそこまで言って、今自分が言った言葉の意味に気が付いて口を噤んだ。
"一緒に住んだら"なんて言葉、すでに祐奈が彼を受け入れているかのような言葉じゃないか。
 まるで将来はそうすることが決まっているかのような……。
 祐奈は慌てて口を開く。
「あ、あの……そ、そういう意味じゃなくて……」
 特に深い意味もない、何気なく口から出た言葉だと祐奈は彼に訂正しようとする。
 でもふとある思いが胸に浮かんで、また口を閉じた。
 こんな風に、自然と口から出た自分の中の小さな変化を、そのまま受け入れていけばいいのでは?
 今口に出してみて気が付いた。
"いつか一緒に住んだら"
 本当にそうなればいいと思っている自分がいる。
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