内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 祐奈は困り果てていた。
「す! す~!!」
 大和が大雅に手を伸ばして、大きな声で彼を呼ぶ。もう今にも泣いてしまいそうだ。
「す~!!」
 大和が昼寝から目を覚ました後、祐奈はいつものように帰り支度を始めた。そして、これまたいつものように彼を抱いて、大雅に別れを告げたのだ。
「お父さんにバイバイして?」
 いつもなら覚えたての"バイバイ"を嬉しそうに力いっぱいしてみせるはずの大和。
 だが今日は少し違っていた。
 大雅の方に手を伸ばして、いやいやと首を振る。そして悲しそうに「す」を繰り返している。
 それを見つめる大雅の目もまた、ものすごく寂しそうだ。
「……もう一回、アイスが食べたいのかな」
 伸びてきた小さな手を優しく握って、大雅は言う。
 祐奈はそれを違うと思った。
 大和は大雅とまだ別れたくないのだ。
 子供というのは、大人が思う何倍も敏感だと祐奈は思う。
 大雅の、すべてを包み込むような無償の愛を彼はしっかりと感じとっているのだろう。
「す!」
 大和の目から、ついに涙が溢れ出す。
 祐奈はなんだか自分まで泣きそうになってしまう。祐奈もまた、彼と離れがたい気持ちだった。
「大和……一週間後にはまた会えるよ」
 でもその一週間が、果てしなく長いように感じる。
「よし、じゃあもう一回、高い高いしてあげよう」
 大雅が祐奈の腕から大和を抱き取り、少し勢いよく持ち上げる。すると大和は一瞬目を丸くしてすぐに嬉しそうに声をあげた。
 でもしばらくして祐奈の腕に戻そうとすると、また同じように泣き出してしまう。
「……帰らないと、ダメなんだよな?」
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