【完】片手間にキスをしないで
< 奈央side >
月曜の放課後、調理室。
ミルクと水を沸かした鍋に、ダークチョコレートの欠片を落とし込む。底でカランカランッ、と弾ける音が、何よりも嗜好だった。
奈央は渦を描く様にヘラを躍らせながら、自分の手を見据えた。
───『奈央……まだ行けるよね。お掃除しなきゃ』
成敗といえば聞こえは良いが、幾度も返り血を拭った手。いや、成敗なんて大義名分なしに、ただ快楽を求めて拳を振り上げたこともある。
そんな、曰くつきの手で製菓……ちゃんちゃらおかしい。何より、柄じゃない。似合わない。
でも、離れなかった。
───『んっ?! お、おいしいっ!残り物には福があるって、本当だったんだ』
お前は覚えていないだろうが、俺はきっと忘れない。
眉を下げて、片頬にくぼみを携えて、幸せそうに緩んだ口元───1番はじめに夏杏耶を見つけたのは、俺だ。