【完】片手間にキスをしないで
お前があまりにも真っすぐだから、俺はいつも自衛に精一杯で。ただ、それが望まれていないことも分かっている。
それでも、簡単に理性を手放すわけにはいかないんだよ。
奈央は自分の心臓を掴むように、夏杏耶の体温を締め付ける。瞬間、彼女のピクリと跳ねる肩が〝ジャストミート〟と言わんばかりに、遠慮なく理性を抉った。
「節操ないんじゃなくて、本気で狙うってこと」
「……は?」
「夏杏耶ちゃんだよ。もう分かる?意味」
そして、今度は罰だと言わんばかりの鈍い痛みが、額に走る。
「本気だよ。嫌ならぶつかれよ……昔みたいにさ」
夏杏耶に触れたであろう唇が、至近距離で弧を描く。
「ああ。それとも、もう攫ってもいい? 随分冷めたフリ、してるみたいだけど」
加えて、追い打ちのように放たれる。
……余裕なさすぎだろ、俺。
奈央は当てられた額を力任せに剥がし、鮎世の耳元で綴った。
「そう簡単に、手放せると思うなよ」