【完】片手間にキスをしないで
───『私、奈央クンのこと好き。……だから、彼女にして、ほしい……です』
あの日。夜な夜な呼び出された公園で、小さく頭を垂れた彼女。
途切れ途切れに紡がれた言葉が、溶けていくのと同時。露わになった旋毛をなぞりたくなった衝動が、蘇ったからだ。
「伸びたな。髪」
「うん……似合うかな」
「普通」
「あははっ、よかったぁ」
そこは不貞腐れる所だろ……。
似合ってるよ───そう撤回も出来ないまま、奈央は口をつぐむ。淡い色の髪が自分の手をすり抜けていく感覚が、心地よかった。
「ん。できた」
「す、すごっ……奈央クンってやっぱり手先器用……前のザッハテルト?も美味しかったし」
「ザッハトルテ」
「あ、それそれ」
はにかみながら前髪を作る彼女の唇に、不本意にも視線がいく。
件のザッハトルテを持ち帰った夜。あのとき。お前と鮎世は───