【完】片手間にキスをしないで
いや……なぜか、ではないな。自分でしっかり自覚している。
わざわざ休日に、柄にもなく夏杏耶についてきたのはつまり〝そういう〟ことだ。
「でも私、大学の学祭なんて初めてだなぁ~」
「あんま浮かれんなよ」
「奈央クンも、少しくらい浮かれたらいいのに」
「……浮かれてられっかよ」
奈央は最寄り駅の改札口で、低く声のトーンを落とす。目の前にはすでに、夏杏耶の同級生である男女2人と───
「あれ……やっぱり来たんだ?奈央」
「うるせぇ軽石」
「軽石って、」
フードを深くかぶった男は、プククッ、と肩を縮めて笑い出す。鮎世だった。
「いやぁ。美々ちゃんに誘ってもらえるなんて、光栄だよ」
「まぁ、カーヤちゃんのついでだったけどね~。あと静も」
「俺もかよ」
木原美々。自称・夏杏耶のアドバイザーを名乗るちびっ娘は、こちらに訝し気な視線を寄せる。
肩に添えられた鮎世の手を払いながら、奈央はギッと睨み返した。