【完】片手間にキスをしないで


「……ま、いいや。皆揃ったし行きますかー」


うわ、目つき悪───とでも言いたげに眉を浮かせたあと、美々は夏杏耶の腕をとる。


「ねぇカーヤちゃん。よく冬原先輩つれてこれたね……いや、いいんだけどさ」

「つれてきた、っていうか……ついてきてくれた、というか」

「は?どゆこと?」


改札をくぐった後。ひそひそと繰り広げられる彼女たちの会話は、正直筒抜けだった。


それに……どういうことも何も、理由はひとつしかない。


「過保護だねぇ、奈央」


再び手を肩に置く鮎世。フードの隙から覗く口角を睨みながら、奈央は思い返す。


───『美々にね、大学の学祭行こうって誘われたんだけどね?えっ、と……よかったら奈央クンもどう? 鮎世もいるらしいし』


「……」


おそらく、見知った友人がいれば釣れるかも、と考えたのだろう。いかにも夏杏耶らしい魂胆。

< 110 / 330 >

この作品をシェア

pagetop