【完】片手間にキスをしないで
「……ま、いいや。皆揃ったし行きますかー」
うわ、目つき悪───とでも言いたげに眉を浮かせたあと、美々は夏杏耶の腕をとる。
「ねぇカーヤちゃん。よく冬原先輩つれてこれたね……いや、いいんだけどさ」
「つれてきた、っていうか……ついてきてくれた、というか」
「は?どゆこと?」
改札をくぐった後。ひそひそと繰り広げられる彼女たちの会話は、正直筒抜けだった。
それに……どういうことも何も、理由はひとつしかない。
「過保護だねぇ、奈央」
再び手を肩に置く鮎世。フードの隙から覗く口角を睨みながら、奈央は思い返す。
───『美々にね、大学の学祭行こうって誘われたんだけどね?えっ、と……よかったら奈央クンもどう? 鮎世もいるらしいし』
「……」
おそらく、見知った友人がいれば釣れるかも、と考えたのだろう。いかにも夏杏耶らしい魂胆。