【完】片手間にキスをしないで


 ◇


第43回 天蝶(てんちょう)祭───彩り豊かに描かれた看板が、野外ステージに垂れさがる。


ちょうどその前、舞台で披露されているジャズダンスを、奈央はただ漠然と眺めていた。


「わぁ……ダンスかっこいいね、奈央クン」

「……露出多すぎだろ」

「えっ、」

「どこ見ていいかわかんね」

「えぇ……わっ、私の下着は何とも思わないのに……」


はぅっ、とチュロスを咥えながら、上目遣いで訴える夏杏耶。


「……」


そういえば、だ。


同居を始めたばかりの頃、散らばったブラやらショーツやらを直視していた記憶が蘇る。


「お前が本物の阿呆でよかったよ」

「……え?それはどういう……」

「なんでもねぇ」


何とも思わないように見えたのなら、してやったり。動揺を隠すくらい、夏杏耶の前では容易いもんだ。


奈央は彼女の頭に手を乗せ、柄にもなくクシャッと撫でた。

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