【完】片手間にキスをしないで


「ほんと健気でかわいいね。夏杏耶ちゃん」

「……なんでこっちに来んだよ」


隣に下がってきた鮎世に、思わず眉を寄せる。かわいい、と簡単に刻むことのできる口元が、妙に憎たらしかった。


「奈央も過保護だよね。ま、それは昔からか。夏杏耶ちゃんのことになると」

「……危なっかしいからな。あいつ」

「まさか、本当に付き合っちゃうとは思わなかったけど」

「あぁ?」

「アッハハ、さすがの眼力。変わってないね……夏杏耶ちゃんの愛も」

「お前……からかうのも大概に──」

「奈央。これは忠告だよ」


大概にしろ。


続けるはずだった言葉は、鮎世の言葉に遮られる。それは湿った風と相まって、心臓を逆なでした。


なぜか、胸がざわついた。


「忠告って、」

「覚えてるでしょ。ミャオのこと」


フードを後ろへ倒した鮎世は一転、真剣な表情で視線を流す。


昔の、血の気が増すときの眼をしていた。

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