【完】片手間にキスをしないで
「イタッ、痛い痛い、奈央マジで……ッ」
「何が狙いかハッキリ言えよ。嘘なんだろ……あいつを狙ってるっつーのは」
「えぇ……なんだ、結局バレちゃうのか」
喧騒の中。解放した手で前髪を掻き上げ、軽く舌なめずりをする仕草に、周りの女子大生たちが黄色い声を上げた。
「あの子に手を出したら、奈央の気を引けると思ったんだ」
「それでキスしたのかよ」
「え?なんのこと?」
「……とぼけんなカス」
握った拳を胸に押し当てると、エホッと咽る鮎世。それでも足りなかった。
……夏杏耶に触れていいのは、俺だけなんだよ。
「アハハッ。もう溺愛じゃん」
「あ?」
「奈央の言う通り……俺はさ、夏杏耶ちゃんなんてどうでもいいんだよ。奈央とまた、親友に戻れるならさ」
きもいこと言ってんじゃねぇ……。
奈央は押し当てた拳を落とし、大きく息を吐いた。