【完】片手間にキスをしないで


「俺はもう足洗ったんだよ。お前と組む理由はない」


脳裏に蘇ったのは、3年以上も前。


中坊風情、たった2人。鮎世と背を守り合い、地元に蔓延(はびこ)るガラの悪いカスどもを締め上げるのは、たしかに心地が良かった。


───『なんだよ、お前ら……ほんとに中坊かよ』


自分より高いところにあった視線が、拳を振り上げた後には地面に這いつくばり、口元から血を流しながらこちらを見上げる。


その快楽を重ねるごとに浮かんだのは、夏杏耶の笑顔だった。


───『奈央クンっ……!この前また喧嘩してたって……怪我は……?してない?』


穢れた拳を包み込む、細く冷たい温度だった。



「理由はないって……ミャオから危害が及んでも?」

「及ばせない」

「そんな簡単に、」

「惚れた女のひとり、手前(てめえ)で守れなくてどうすんだよ」

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