【完】片手間にキスをしないで
言いながら奈央は、人混みに溶けたはずの背を見つけ出す。今朝梳かしてやった髪が、視線の先でふわりと靡いた。
「あれ……奈央クン、鮎世っ、こっちこっち~!」
ばか……声がでかいんだよ。
「ほら。行くぞ軽石」
「……ねぇ奈央、それやめない?ダサいんだけど」
「ピッタリだろ、お前に」
「だから、夏杏耶ちゃんのことは悪かったって……」
フードを被り直しながら「ね、ごめんって」「許して」を繰り返す鮎世に、奈央は視線を鋭く刺した。
「次したらぶっ殺す」
半分真顔で、放ちながら。