【完】片手間にキスをしないで


ひんやり、手首に感触が走ったとき。もう、手遅れだと悟った。


──────……


「奈央クンは……あ、もういないし……」

「うん。静くんと一緒に行っちゃったね。まぁ、あそこはすぐ終わるでしょ」


暗号の紙とにらめっこを続ける夏杏耶に、欠伸混じりで答える鮎世。焦りのひとつもない様子が、余計に気を逆なでした。


「やっぱり、奈央クンと手錠されたかった」

「それなら言えばよかったのに。奈央は拒否しないと思うけど?」

「……拒否、するよ」


だから、運任せだったのに。


「ハハ……2人とも拗らせすぎ」

「2人ともって?」

「ううん。なんでもなーい」


てゆーか、協力してよ少しくらい……。


口を尖らせながら、夏杏耶はもう一度暗号に視線を戻した。


「〝音を()るもの〟……」

「夏杏耶ちゃん。たぶんそれ、(つかさど)る」

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