【完】片手間にキスをしないで


あ、それより俺唐揚げ食べていい?───呑気にそう続けながら、手錠で繋がれた手で指を差す。


反動で否応なく持っていかれる手首に、夏杏耶は「イタッ」と唸った。


「ごめん、平気?怪我は、」

「平気……」


怪我なんかより、読み間違えていたことの方が恥ずかしい。思わず熱くなった頬を、空いている左手ですぐに冷やした。


「ねぇ、鮎世」

「うん?」

「私って、すごく成績悪いんだ」

「何のカミングアウト?」

「……だ、だから……」

「ん?」


俯いたまま、広場に差し込む日を浴びる。夏杏耶は口籠りながら、不本意にも彼を見上げて───


「お願い。ちゃんと手伝って」


懇願した。


あれから……キス未遂を犯されたあの夜から、目を合わせるのを避けていた。だから、彼の瞳の色を収めるのは久しくて。


「お願い……鮎世」


ご無沙汰だった特有の引力を感じながら、夏杏耶は唇を噛みしめた。

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