【完】片手間にキスをしないで
いや……隠れたのはいいけれど。
「もう……それじゃあ、唐揚げ食べられないじゃんっ」
夏杏耶は眉を寄せながら、窄まったフードを強引にこじ開ける。
「……え?」
「え?」
そうして再び露わになった端麗な顔は、更に赤く染まっていた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「うん……何が?」
何が、って……。
今までとは打って変わってぎこちなく微笑む鮎世に、夏杏耶は戸惑ったまま唐揚げを突いた。
「まぁいいや……はいっ、コレ」
「え、」
「唐揚げ。食べたら、暗号手伝ってね」
爪楊枝を差した一片に、彼の喉が上下する。同時に瞬きを繰り返す表情は、とても新鮮だった。
そういえば、奈央クンには「あーん」って……したことなかったなぁ……。
「ねぇ。夏杏耶ちゃん」
「うん?」
「試しに『あーん』って言ってみない?」
ぎこちなさをそのままに、鮎世は小首を傾げた。