【完】片手間にキスをしないで


な、な……なんで今それを……っ。


「い、言わないよっ」

「ムグッ、あっつ……」

「え、あっ、ごめん……!」


心を読まれたのか、と動揺して唐揚げを押し込むと、鮎世はしばらく「はふっ、」と悶えていた。


「ごめん、水……」

「いいよ。ありがと」


一気に呷られたからか、ツゥッ、と首筋に滴るミネラルウォーター。よっぽど熱かったらしい。


「俺もごめんね。なんか、からかいたくなっちゃって」

「いや……私も、動揺しすぎた……」

「そういえば、これって飲みかけだった?」


渡したペットボトルを、鮎世は左右にゆらゆら揺らす。


「飲みかけ。……しょうがないじゃん。非常事態だから」

「ふーん。ラッキー」

「……ラッキー?」

「間接キス、いただき」


中で波を打つ水が、なぜだか急に艶っぽく見えて。夏杏耶は顔を火照らせる。


「……バカ」


そして、ペットボトルを取り上げた瞬間。彼の首筋も紅潮していたことに、このときは気付けなかった。

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