【完】片手間にキスをしないで


「夏杏耶ちゃん。26って、なんかピンとこない?」

「26……あっ、フロ?!」

「は?」

「えっ、違う?26で26(フロ)……」


宙に2と6を描きながら、これは絶対間違いだ、と確信する。鮎世が腹を抱えて失笑しだしたからだ。


……笑いすぎだ、まったく。


「もう……忘れて」

「アハハハッ、いいよ。いいね、夏杏耶ちゃん。さすが、奈央のカノ……」

「ん?奈央クン?」

「……いや。ごめん、なんでもないや」


おかしいな。調子狂うわ───ボソッとそう続けながら、どこからかペンを取り出す鮎世。


そして暗号の〝上〟に、器用にインクを滑らせた。


「26はさ、アルファベットの文字数を示してるんだよ。分かる?AからZ」

「……うん。それくらいなら、たぶん」

「19/26は26文字中の19番目、ってことだと思うんだよ。そうするとさ、1番目は〝S〟で、3番目は〝A〟っていう感じで当てはまるでしょ」


───あ、本当だ……見えた。

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