【完】片手間にキスをしないで


同じ要領で当てはめると『S,+(プラス),A,G,E』になるから、つまり……。


「ハイッ、わかった!」

「はい、夏杏耶ちゃん」

「2番目はプラスじゃなくて〝T〟だ!」

「すごいねぇ、せーかい」


指南されただけなのに。頬杖を突きながら流される視線が、ほんの少しだけ大人びて見える。


夏杏耶は不自然に視線を逸らした。


ただTが分かっただけなのに……子どもみたいにはしゃいで、恥ずかしい……。


「夏杏耶ちゃん?」

「な、なんでもないっ……」

「嬉しかったんだ」

「……うるさい」


肩を揺らす鮎世から、暗号の紙を取り上げる。夏杏耶は『19/26(S),+(T),1/26(A),7/26(G),5/26(E)』に目を凝らしながら、頬を覆った。


「ステージ……音を司る者……」


同時に呟きながら、広場の中心のステージに視線を向ける。


すごい、音……ズクズク、と胸に刺さる音。ギターソロが、湿った空を撫でていた。

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