【完】片手間にキスをしないで


 ◇


STAGE、そして、音を司る者───すなわち音響。


鮎世の力を借りて(というか、ほとんど鮎世の力で)音響担当の男子学生に訊ねると、


『お。待ってました~』


言いながら、快く2つ目の暗号を渡してくれた。……ただ、


『カップル多いっすねぇ。手錠って、なんか目覚めそうじゃないですか?』


彼の最後の言葉には、思わず耳を塞ぎたくなったけれど。



「俺ら、カップルに見えるんだね……どう?奈央から乗り換える?」

「……奈央クン以外は好きにならないもん」

「だよね。知ってる」

「それより、次の暗号……はやく解かなきゃ」

「そうだね。でも、もう解けたよ」

「……えっ?!」


手元の暗号から視線を持ち上げると、目の前には色素の薄い瞳が光っていて。


その距離感に思わず息を呑むと、彼はククッ、と喉を上下させた。


……なんだかずっと、鮎世のペースだ。

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