【完】片手間にキスをしないで
「はぁっ、はぁっ……」
喉元に触れられた指の感触が、離れない。駐車場の隅、夏杏耶は首を軽く押さえながら、懸命に息を整えた。
どうして……息があがるようなことはしていないのに。
「夏杏耶ちゃん……夏杏耶ちゃん」
「鮎世……」
「ゆっくり、深呼吸しようか。ね?」
背を摩ってくれる鮎世の手が、張っていた緊張の糸をほぐしていく。
「かっこ悪いとこ見せちゃったなぁ。手錠がなければ、5,6人くらい余裕で沈められたんだけど」
温かい手のぬくもりに、涙腺が緩みそうだった。
「あいつ、ミャオって結構強くてさ……中学の時からずっと。でも1回だけ、奈央に傷つけられたことがあって」
「奈央クン、に……」
「ずっと根に持ってる。まさか〝もう〟夏杏耶ちゃんのこと知られてるとは思わなかったけど……」
おかしいと思った。初対面のはずなのに、どうして付き合っていることを知っていたんだろうって。