【完】片手間にキスをしないで
やめて。からかわないで───きっと、今までの鮎世にならそう放って、自分から引き剥がしていた。
なのに、どちらも叶わない。むしろ、頭上に落ちる彼の吐息は、軽薄とは程遠いと思えた。
「震えてる」
「……」
「大丈夫。俺も怖かったから」
「……え?」
「夏杏耶ちゃんを傷付けられたら……たぶん、正気じゃいられなかった」
身体を締め付ける強さが、少しずつ増していく。やっぱり、全然、軽くなんてなかった。
「鮎世……?」
「まずいな……これは、本気でまずい」
「な、にが、」
「変なこと言いそう、俺」
「変なこと……?」
「あー、まって。ほんとに見上げないで。ここで上目遣いとか、色々保てなくなる」
絶対、主語が足りてない。解らない。それでも言う通りに、夏杏耶は顔を埋めた。
「おい鮎世ー、俺たちもう行くぞー」
「また女遊びか。いいなぁイケメンは」
「でも子ウサちゃんって確か、」