【完】片手間にキスをしないで
ブォン、と去っていく仲間たちの言葉に、鮎世の肩がピクリと跳ねる。
見世物になっていることを、すっかり忘れていた。
「……ごめん。これ、遊びじゃないわ」
バイクの音にかき消される独り言。
包み込まれる体温のなかで「何か言った?」と訊ねたけれど、答えはしばらく返ってこなかった。
代わりに響いたのは───彼に似つかわしくない細い声。
「奈央じゃなくて、俺が……夏杏耶ちゃんを守りたいって、いま本気で思ってる」
コンクリートに反響した言葉に、思わず目を瞠った。
「鮎世……それ、って……」
絡まった糸。逡巡して、しまいには結局呑み込まれた言葉。自分で声に出してしまうのは、気恥ずかしかった。
だから、しばらくは沈黙のまま。
「夏杏耶───!!」
「……え、」
破ったのは、コンクリートを叩く足音。そして、いつだかのように焦燥感を含んだ、奈央の声だった。